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大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)6235号 判決

原告

松井精工株式会社

被告

村田信夫

主文

1  被告は、原告が別紙目録(1)(2)記載の「自動開成洋傘の傘骨ろくろ係止装置」を製造販売することにつき、実用新案登録第1221321号の実用新案権に基づいて、その差止を求める権利を有しないことを確認する。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを5分し、その1を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

1 被告は、原告が別紙目録(1)(2)(ただし、同目録(1)のイ号物件説明書末尾の「尚、前記操作頭部109の両側面は操作孔110の側面と接するように嵌挿されている」とあるのを「尚、前記操作頭部109は操作孔110に嵌挿されている」と、同イ号図面第2、3図を別紙原告図面第2、3図に、また、同目録(2)のロ号物件説明書の第9段落中の「この部分108'には係止弾片106の操作部106"の立上り部106'"の前縁がわずかに位置し、操作頭部109を完全に押入したとき初めて立上り部106'"の前縁は縦割溝108'より後退する」とあるのを「この部分108'には係止弾片106の操作部106"の立上り部106'"の前縁のみがわずかに進入しているが(第1図)、操作頭部109を押入して係止突起112によるろくろ102の係止を解除した状態では、前記立上り部106'"の前縁は縦割溝108'より後退する」と各訂正する)記載の「自動開成洋傘の傘骨ろくろ係止装置」を製造販売することにつき、実用新案登録第1221321号の実用新案権に基づいて、その差止を求める権利を有しないことを確認する。

2  被告は、原告が上記載の「自動開成洋傘の傘骨ろくろ係止装置」を製造販売することが実用新案登録第1221321号の実用新案権を侵害する旨を、原告の取引関係者その他の第3者に対し、文書あるいは口頭で陳述または流布してはならない。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

2 請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第2当事者の主張

1  請求原因

1 被告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という)を有する。

考案の名称 自動開成洋傘の傘骨ろくろ係止装置

出願 昭和49年11月22日(実願昭49-141513号)

公告 昭和52年6月9日(実公昭52-25327号)

登録 昭和53年3月30日(第1221321号)

実用新案登録請求の範囲

「軸管に昇降自在なるよう被嵌した傘骨ろくろを、軸管に設けた係止部により係止して閉傘状態を保持し、当該係止部による係止を手動操作によって解除することにより自動開傘するようにした洋傘において、該係止部は軸管に内装して手許側の操作部が軸管に穿設した縦溝より押入自在に出頭する係止弾片と、該縦溝を囲繞する位置で軸管に嵌着した筒状体とからなり、該係止弾片の操作部は筒状体に形成した縦割溝に収納するとともに、同部には手許側の操作頭部を押入操作することにより前記傘骨ろくろとの係止が解除される係止突起を設けてなる自動開成洋傘の傘骨ろくろ係止装置」

2  本件考案の構成要件及び作用効果は次のとおりである。

(1)  構成要件

(1) 軸管に昇降自在になるよう被嵌した傘骨ろくろを、軸管に設けた係止部により係止して閉傘状態を保持し、当該係止部による係止を手動操作によって解除することにより自動開傘するようにした洋傘において、

(2) 該係止部は軸管に内装して手許側の操作部が軸管に穿設した縦溝より押入自在に出頭する係止弾片と

(3) 該縦溝を囲繞する位置で軸管に嵌着した筒状体とからなり

(4) 該係止弾片の操作部は筒状体に形成した縦割溝に収納すると共に

(5) 同部には手許側の操作頭部を押入操作することにより前記傘骨ろくろとの係止が解除される係止突起を設けてなる

(6) 自動開成洋傘の傘骨ろくろ係止装置

(2) 作用効果

(1) 係止弾片6を装設した縦溝5を、軸管1に穿設してあるが、その位置には筒状体7が被嵌されているので、縦溝5の形成による軸管折損の虞れを完全に解消することができる。

(2) 筒状体7を軸管1に固定して用いるものであるから傘骨ろくろ2の位置に対応して適切な個所に固着することが容易となる。

(3) 縦割溝8に係止弾片6を収納し、筒状体7を軸管1に固定するだけですむので、組立ても簡単な作業ですみ、係止弾片6は縦割溝8により横揺れがないので安定した押入操作を長期にわたり確保することができる。

3  原告は、別紙目録(1)、(2)(ただし、同目録(1)のイ号物件説明書末尾の「尚、前記操作頭部109の両側面は操作孔110の側面と接するように嵌挿されている」とあるのを「尚、前記操作頭部109は操作孔110に嵌挿されている」と、同イ号図面第2、3図を別紙原告図面第2、3図に、また、同目録(2)のロ号物件説明書の第9段落中の「この部分108'には係止弾片106の操作部106"の立上り部106'"の前縁がわずかに位置し、操作頭部109を完全に押入したとき初めて立上り部106'"の前縁は縦割溝108'より後退する」とあるのを「この部分108'には係止弾片106の操作部106"の立上り部106'"の前縁のみがわずかに進入しているが(第1図)、操作頭部109を押入して係止突起112によるろくろ102の係止を解除した状態では、前記立上り部106'"の前縁は縦割溝108'より後退する」と各訂正する)記載の「自動開成洋傘の傘骨ろくろ係止装置」(以下、原告主張の別紙目録(1)を「イ号物件」、同目録(2)を「ロ号物件」という)を業として製造販売している。

4  イ号物件、ロ号物件の構成は次のとおりである。

(1)  イ号物件

(1)' 軸管101に昇降自在となるように被嵌した傘骨ろくろ102を、軸管101に設けた係止部103により係止して閉傘状態を保持する一方、該係止部103により係止を手動操作によって解除することにより自動開傘するようにした洋傘であって、

(2)' 係止部103が、係止弾片1036と、筒状体107とから成るもので、係止弾片106は、軸管101に内装され、手許側の操作部106"を軸管101に穿設された縦溝105より押入自在に出頭せしめるものであり、

(3)' 筒状体107が軸管101に外嵌されてはいるが、該筒状体107は縦溝105約50ミリメートルのうち約21ミリメートルを囲む位置にあり

(4)' 筒状体107に縦割溝108を形成し、右縦割108は縦溝105よりも溝幅が大で、閉塞突部120120の間に位置する部分の縦割溝108'は縦溝105と略同幅であるが、この部分108'には係止弾片106の操作部106"の立上り部106'"が位置せず、

(5)' 係止弾片106の手許側に操作頭部109を設けると共に、傘骨ろくろ102の係止口104と係止する係止突起112を設け、操作頭部109を押入操作することにより前記係止口104と係止突起112との係止を解除するようにした

(6)' 自動開成洋傘の傘骨ろくろ係止装置

(2) ロ号物件

前項(4)'を次のとおり改める外、イ号物件と同一でありそれぞれ構成(1)"(2)"(3)"(5)"(6)"とする。

(4)" 筒状体107に縦割溝108を形成し、右縦割108は縦溝105よりも溝幅が大で、閉塞突部120120の間に位置する部分の縦割溝108'は、縦溝105と略同幅であるが、この部分108'には係止弾片106の操作部106"の立上り部106'"の前縁のみがわずかに進入しているが、操作頭部109を押入して係止突起112によるろくろ102の係止を解除した状態では、前記立上り部106'"の前縁は縦割溝108'より後退する

5  イ号物件の構成(1)'、(2)'、(5)'、(6)'は本件考案の構成要件(1)、(2)、(5)、(6)を充足するものの、構成(3)'、(4)'は構成要件(3)、(4)を充足せず、従ってイ号物件は本件考案の技術的範囲に属しない。

(1)  本件考案が、構成要件(3)において「縦溝を囲繞する位置で軸管に嵌着した筒状体」を考案の必須条件としたことの意義について検討するに、「囲繞」とは、文理上、「かこいめぐらすこと」(広辞苑・第2版補訂版)であり、従って、「縦溝をかこいめぐらす」とは「縦溝の全体をかこいめぐらす」ことを意味すると解すべきである。けだし、縦溝は一体的なものであるから縦溝の一部が筒状体の外部に位置する場合には筒状体が縦溝を「囲繞する」とはいえないからである。

また、右「囲繞」の技術的意義は、前記のとおり筒状体に囲まれているので、縦溝の穿設された軸管が補強され軸管折損の虞れを「完全」に解消できる点にあるが、そのためには縦溝の全体にわたって折損防止手段が施されていなければならない。けだし、縦溝の一部のみ補強したのでは、他の部分にて軸管折損の虞れは解消しえず、本件考案の「完全に解消する」という効果を奏しえないからである。

ちなみに、本件考案の図示実施例では、筒状体は縦溝の全長を囲繞しており、一方明細書の記載中筒状体が縦溝の一部のみを被嵌すればよい旨の記述はなされていない。

これに対し、イ号物件の構成(3)'は、軸管101の縦溝105の全長が約50ミリメートルであり、筒状体107によって囲まれる縦溝105の長さは約21ミリメートルである。従って筒状体107により囲まれる縦溝105の部分は、縦溝105全体の半分以下であり、縦溝105の半分以上は露出している。そうするとイ号物件の構成(3)'は、縦溝105が筒状体107に「囲繞」されているとは認められず、しかも技術的意義についても、縦溝105の半分以上も露出した部分によって、軸管101が折損する虞れを有する。

従って構成(3)'は構成要件(3)を充足しない。

(2)  本件考案が、前記構成要件(4)において「係止弾片の操作部は筒状体に形成した縦割溝に収納する」ことを考案の必須要件としたことの意義について検討するに「収納」とは文理上「おさめいれること」(広辞苑・第2版補訂版)あるいは「受け取りおさめること」(角川国語辞典)である。そして本件考案の図面を参照すると、縦割溝が係止弾片の肉厚と略同幅のものに形成され、該縦割溝に操作部を「拘束」して挿入した状態が示されている。

また、前記「収納」の技術的意義は、係止弾片が縦割溝に拘束されて横揺れを生じることがなく、これにより係止弾片の安定した押入操作を長期にわたり確保できる点にある。

これに対しイ号物件の構成(4)'は、筒状体107の縦割溝108が、軸管101の縦溝105よりも十分に溝幅を大とし、従って係止弾片106の操作部106"は縦割溝108に収納されているものではなく、また、閉塞突部120120間に位置刷る部分の縦割溝108'は縦溝105と略同幅に形成されているが、この部分108'は係止弾片106を全く収納せず、係止弾片106の横揺れ防止には全く機能していない。イ号物件にあっても係止弾片106が横揺れすることなく押入操作されるが、これは係止弾片106が筒状体107の縦割溝108に拘束されているからではなく、軸管101の縦溝105自体に拘束されているからである。

よって構成(4)'は構成要件(4)を充足しない。

6  ロ号物件の構成(1)"、(2)"、(5)"、(6)"は本件考案の構成要件(1)(2)(5)(6)を充足するが、構成(3)"、(4)"は構成要件(3)、(4)を充足せず、従ってロ号物件は本件考案の技術的範囲に属しない。

(1)  本件考案が筒状体によって縦溝を囲繞し(構成要件(3))、これにより縦溝の部分を補強して軸管折損の虞れを完全に解消する効果を奏するに対し、ロ号物件の構成(3)"は、筒状体107は縦溝105約50ミリメートルのうち約21ミリメートルを囲む位置にあり縦溝105の半分以上は筒状体107の外方で露出されており、露出した部分にて軸管101の折損の虞れがあり、構成(3)"は構成要件(3)を充足しない。なお、詳細はイ号物件についての主張と同一である。

(2)  また、本件考案が係止弾片の操作部は筒状体の縦割溝に収納し(構成要件(4))、これにより係止弾片の横揺れを防止して安定した押入操作を長期にわたり確保する効果を奏するのに対し、ロ号物件の構成(4)"は「縦割溝108は縦溝105よりも溝幅が大で、閉塞突部120120の間に位置する部分の縦割溝108'は、縦溝105と略同幅であるが、この部分108'には係止弾片106の操作部106"の立上り部106'"の前縁のみがわずかに進入しているが、操作頭部109を押入して係止突起112によるろくろ102の係止を解除した状態では、前記立上り部106'"の前縁は縦割溝108'より後退する」というものである。

ところで、本件考案は「係止弾片は縦割溝により横揺れがないので安定した押入操作を長期にわたり確保することができる」との作用効果を有するものであり、従って構成要件(4)において「係止弾片の操作部は筒状体に形成した縦割溝に収納する」とした点は、このように操作部を縦割溝に対し、「横揺れを防止できるように収納した」という意味に限定して解すべきである。

しかも、前記横揺れ防止効果は係止弾片の押入操作時に得られるものであるから、操作頭部を押入しない場合と押入した場合とのいずれにあっても操作部が縦割溝に常に「横揺れを防止できるように収納」されていなければならない。このことは本件考案の図示実施例に見られるところであり別紙図面(1)に図示する通りである。すなわちその第1図は操作頭部を何ら押入していない状態で、本件実用新案公報の第1図を拡大したものであり、これに基づき別紙図面(1)の第2、3図を原告が作成したものであって、第2図は操作頭部を押入して係止突起が係止口より外れる直前を示す図であり、第3図は操作頭部を完全に押入した状態を示す図である。これら第1ないし第3図のいずれの状態にあっても、常に操作部が縦割溝に収納され係止弾片の横揺れを防止しているものである。

これに対し、ロ号物件は、操作頭部109を何ら押入しない状態(別紙目録(2)のロ号図面第1図)では、係止弾片106の操作部106"の立上り部106'"の前縁のみが筒状体107に縦割溝108'にわずかに進入しているが、操作頭部109を押入した状態(原告図面第6図)では、前記立上り部106'"の前縁は縦割溝108'より後退し、この状態では係止弾片106は縦割溝108'によって横揺れを拘束されていない。

よって構成(4)"は構成要件(4)を充足しない。

7  原告は、各種洋傘部品の製造販売を営む株式会社であり、被告は、個人営業として各種洋傘の製造販売を営んでいる者であり、両者は互いに競争関係にある。

被告は、原告の取引先である大黒洋傘株式会社に対し、昭和56年7月8日付けの内容証明郵便をもって、イ号、ロ号物件が本件考案の技術的範囲に属するから直ちにその販売を中止するように要求すると共に中止しない時はしかるべき法的手段とる旨を警告した。

しかるに、前述のとおり、イ号、ロ号物件は本件考案の技術的範囲に属しないから、上記載のうちこれを技術的範囲に属するとした部分は虚偽である。

原告は、被告の上行為により営業上の信用が害され、さらに被告は将来に向って上不正競争行為を行う可能性があるから、原告は営業上の利害を害される虞れがある。

よって、イ号、ロ号物件が本件考案の技術的範囲に属しないにもかかわらず被告が争うので、原告がイ号、ロ号物件を製造販売することにつき被告が本件実用新案権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求めると共に、原告は被告に対し、不正競争防止法1条1項6号に基づき請求の趣旨記載のとおり被告の上不正競争行為の差止を求める。

2 請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2(1)(2)の事実は認める。ただし、構成要件の分説については原告の主張する(2)と(3)、(4)と(5)は一つのまとまった技術内容をもっているからこれを分離すべきではない。また、(2)の作用効果(3)の前段と後段は明らかに内容が異なり2つに分離すべきである。

3 同3の事実は認める。ただし、原告主張の訂正のうち別紙目録(1)のイ号物件説明書末尾の「尚、前記操作頭部109は操作孔110に嵌挿されている」との訂正は不明確な表現であり「前記操作頭部109の両側面と操作孔110の側面とは、操作頭部の昇降動作に支障のない程度できっちりと嵌挿している」と訂正すべきであり、原告図面第2図及び第3図はかえって不正確であり訂正する必要はない。また、同目録(2)のロ号物件説明書第9段落中の「この部分108'には係止弾片106の操作部106"の立上り部106'"の前縁のみがわずかに進入しているが(第1図)、操作頭部109を押入して係止突起112によるろくろ102の係止を解除した状態では、前記立上り部106'"の前縁は縦割溝108'より後退する」との訂正は誤りであり「この部分108'には係止弾片106の操作部106"の立上り部106'"が係合している」と訂正すべきである。

4 同4(1)(2)は争う。

5 同5冒頭のうちイ号物件が本件考案の構成要件(1)(2)(5)(6)を充足する点は認め、その余は争う。同(1)(2)は争う。

6 同6冒頭のうちロ号物件が本件考案の構成要件(1)(2)(5)(6)を充足する点は認め、その余は争う。同(1)(2)は争う。

7 同7の事実のうち、被告が個人営業として各種洋傘の製造販売を営んでいる点は否認し、訴外大黒洋傘株式会社に対し本件実用新案権侵害につき内容証明郵便を出した点は認め、その余は争う。被告は各種洋傘の輸入販売を行っている有限会社丸定商事の代表取締役にすぎない。

3 被告の主張

被告は本件実用新案権を有しているところ、イ号、ロ号物件はいずれも本件考案の技術的範囲に属するものである。

1 イ号物件について

(1)  構成要件の「縦溝を囲繞する」とは「溝の両側をかこいめぐらす」ことと読むのが普通であり、どの程度かこむのか明確な表現のない場合には常に必ず全長にわたってかこいめぐらすと読む必要はない。従って本件考案の上構成要件は、筒状体の縦割溝が軸管の縦溝の位置に配置され,縦溝の両側をかこいめぐらす状態で、筒状体が軸管に嵌め込まれ固着されている構造を示すのであって、イ号物件においても、筒状体107の縦割溝108が軸管101の縦溝105の両側をかこいめぐらす状態で、筒状体107が軸管101に嵌め込まれ固着されているから両者の構造は同じである。そして、縦溝105の筒状体107によって囲繞されている部分の軸管101が補強され折損の虞れが少ないという効果を享受していこことは明らかであるから、作用効果についても差異はないというべきである。

(2)  本件考案の構成要件の「縦割溝に収納する」とは、筒状体に縦割溝を削成し、その縦割溝が軸管の縦溝に合致する位置にくるように筒状体を軸管に嵌着し、あらかじめ軸管に内装し縦溝から押入自在に出頭するように組立てられている係止弾片の操作部を縦割溝におさめいれるという構成を規定したものであり、このように係止弾片の操作部をおさめいれる縦割溝を設けたことが本件考案すなわちABジャンプの最も大きな特徴であって、この構成によって単に筒状体を軸管に嵌着するだけでAジャンプと同様の外観を呈せしめることができる。

従って縦割溝は係止弾片の操作部を収めいれること自体に重要な技術的意味を有するのであるから、「収納」の意義を、その言葉自体の意味から離れて、実用新案登録請求の範囲に何の限定もないのに「横揺れしないようにおさめいれること」とまで狭く解釈する必要はない。

イ号物件においては、筒状体107には縦割溝108を削成し、その縦割溝108が軸管101の縦溝105に合致する位置にくるように筒状体107を軸管101に嵌着し、あらかじめ軸管101に内装し、縦溝105から押入自在に出頭するように組立てられている係止弾片106の操作部106"を縦割溝108におさめいれたものであり、そのように構成することによって単に筒状体107を軸管101に嵌着しただけでAジャンプと同様の外観を呈せしめている。従ってイ号物件の筒状体107の縦割溝108と係止弾片106との関連構成は本件考案の構成要件と同じである。

(3)  仮に原告主張のとおり「横揺れしないようにおさめいれる」ものに限定するとしても、係止弾片の形状、縦割溝の溝の形状に格別の限定があるわけではないから、係止弾片の操作部の一部とみなすことのできる操作頭部と縦割溝の一部とみなすことのできる操作孔との間に「横揺れしないようにおさめいれる」関係があれば、その場合も本件考案の技術的範囲に属するというべきである。

すなわち本件考案における操作頭部について実用新案登録請求の範囲には「同部には手許側の操作頭部を押入操作にすることにより前記傘骨ろくろとの係止が解除される係止突起を設けてある」と記載し、この「同部」とは係止弾片の操作部を指すから、操作頭部を操作部の手許側に形成されるその一部とみなしたものと解される。そしてこの操作頭部は押入操作をするのであるから、その操作頭部のおさめいれられる操作孔が当然筒状体にそなえられるべきであり、操作頭部が操作部の一部であり、操作部が縦割溝におさめいれられているのであるから、この操作孔は当然縦割溝の一部とみるべきことになる。

してみれば、操作頭部と操作孔との係合関係は、操作部と縦割溝との係合関係と同等のものとみなされるべきであり、前者の係合関係に「横揺れしないようにおさめいれる」関係があれば、本件考案の技術的範囲に含まれるとみるべきである。

そしてイ号物件においては操作頭部109は係止弾片106の操作部106"に固着され、それと一体のものとみなしうるし、一方その操作頭部109をおさめいれる操作孔110は縦割溝108に連接して設けられた縦割溝の延長された一部とみることができ、その操作頭部109の両側面と操作孔110のの側面とは、操作頭部109の昇降動作に支障のない程度できっちりと嵌挿しているから、この係合関係によって係止弾片106は縦割溝108に「横揺れしないようにおさめいれる」関係にあるということができる。

(4)  以上のとおり、原告の主張する本件考案とイ号物件の相違は構成上においても作用効果の点でも相違といえるものではなく、イ号物件は本件考案の構成要件をすべて充足し、作用効果もすべて同一であるから本件考案の技術的範囲に属する。

2 ロ号物件

(1)  本件考案の構成要件の「囲繞」についてはイ号物件の主張と同一である。

(2)  原告は本件考案の構成要件の「収納」について「操作頭部を押入しない場合と押入した場合とのいずれにあっても操作部が縦割溝に常に横揺れを防止できるように収納されていなければならない」と主張するが、これは実用新案登録請求の範囲に全く規定のない限定条件を附加するものであるから許されない。

仮にゆるされるとしても上主張は合理的ではない。すなわち、係止弾片の押入操作時に横揺れを防止するためには、係止弾片を押入しない状態で係止弾片の操作部と縦割溝との間に係合関係が必要であるが、係止弾片を押入操作する場合は、押入行程の終りまで押入れないうちに傘はバネにより開くように構成されているから、その押入行程の途中まで係止弾片の操作部と縦割溝との間に係合関係かあれば十分である。

従って、原告か別紙図面(1)により本件考案の実施例について説明したように押入行程の終りまで係止弾片の操作部と縦割溝との係合関係があればそれに越したことはないが、そこまで係合関係が続かなくても実際の押入操作において横揺れ防止は十分に達成できるから、押入行程の終りだけを問題にする原告の主張は合理的といえない。

ところで、ロ号物件は、その実物である検乙第2号証の洋傘において操作頭部109を押入した状態で立上り部106'"前縁と縦割溝108'との係合関係がなくなることはないので、原告の主張は失当である。(原告図面第6図は誤りである)。

しかも検乙第2号証のものについて操作頭部109を押入れてみると押入れた途端に傘は開く。押入行程の半分も押す必要はない。押入行程の半分の位置で横揺れが防止されていることは検乙第2号証により確認できることであるから、ロ号物件が係止弾片106の操作部106"と筒状体107の縦割溝108との係合関係により横揺れ防止効果を享受していることは明らかである。

その他の点についてはイ号物件に対する主張と同一である。

4 原告の反論

1 「囲繞」に主張について

(1)  考案の技術的範囲は実用新案登録請求の範囲の記載に基づいてなされるべきことが勿論であるが、これが不明瞭であるときは考案の詳細な説明及び図面の記載を参酌して合理的に決定されるべきである、本件の場合、上登録請求の範囲における「縦溝を囲繞……筒状体」との記載について考案の詳細な説明及び図面を参照すると次の如き記載がある。

「従来この種の係止部は既知のように軸管に穿設した縦溝に押入自在として係止片を収納し……構成されているため、……この縦溝のところから軸管が折損し易い難点があった。」

「本考案は叙上のように係止弾片6を装設した縦溝5を、軸管1に穿設してあるが、その位置には筒状体7が被嵌されているので、縦溝5の形成による軸管折損の虞れを完全に解消することができ」

さらに図面には、縦溝5の全長よりも長い範囲に亘って筒状体7を被嵌した図のみが記載されている。

ところで上記載は本件考案の目的及び効果に関するものであるところ、これによれば、従来は軸管に穿設した縦溝のところから軸管が折損し易い欠点があったのに対し、本件考案はこれを改良し筒状体を被嵌することにより前記欠点を完全に解消したというものである。換言すれば、縦溝はある程度の長さで軸管に穿設されており、縦溝の長手方向に関し選択できる不特定部分のいずれでも折損の虞れがあるのに対し、本件考案は特定部分に限らず要するに「縦溝」に原因する折損の虞れを完全に解消したというものである。けだし、本件考案が「縦溝5の形成による軸管折損の虞れを完全に解消する」ことを効果とする以上、これが縦溝の一部に原因する折損だけを防止し、縦溝の他の部分に原因する折損を容認するものでは、結局実質的には従来例と変わらないことになる。

考案は目的を達成する手段として技術的構成を有し、この技術的構成に基づいて効果を奏するものであり、その技術的構成が登録請求の範囲に記載されたものであるから、本件考案の「囲繞」の意味は、上目的を達成し、且つ上効果を奏するものに解しなければならず、結局、「縦溝を全体として筒状体により囲いめぐらす」との意味に帰結する。

(2)  雑誌「暮しの手帳」に記載された「51本の紳士傘」の記事(甲第11号証)にはイ号、ロ号物件が「B'ジャンプ」として紹介されている。この記事によれば洋傘の中棒につき耐力テストをした結果中棒のハジキの飛び出している切れこみの上の部分がまずゆがみ、亀裂が入り、やがて切れてしまい、B'は7本のうち3本がダメになったから4割が不合格となったことが説明されている。

上記載からもイ号、ロ号物件が本件考案の折損防止作用効果を有しないことがわかる。

2 「収納」の主張について

(1)  本件考案は、「係止弾片6は縦割溝8により横揺れがないので安定した押入操作を長期にわたり確保することができる」ことの効果を奏するものであるが、これが考案の効果である以上、登録請求の範囲の記載された技術的構成との間で因果関係を有しなければならない。

そして、「係止弾片6は縦割溝8により横揺れがない」ことの原因を登録請求の範囲の記載中より精査すると、これは唯一、本件考案が「係止弾片の操作部は筒状体に形成した縦割溝に収納する」ことの技術的構成を採用しているからに外ならない。

従って、本件考案は、操作部を縦割溝に「収納」した技術的構成に基づき、これにより右の横揺れ防止効果を奏するものであるから、「収納」とは操作部を縦割溝に「横揺れしないようにおさめいれること」を意味すると解すべきである。

(2)  操作頭部と操作孔の主張について

「収納」の構成に関し、本件考案は、登録請求の範囲に「係止弾片の操作部は……収納する」と明記し、また明細書に「係止弾片6は縦割溝8により横揺れがない」と説明しており、縦割溝に収納されるのは係止弾片自体を構成する操作部であることを明確にしている。一方、操作頭部は、係止弾片とは別体の部材であり、図示実施例にあってもこれが操作部に被冠された別部材であるから、この操作頭部と係止弾片自体を成す操作部とは、相互に区別された部材であり、少なくとも、本件考案はは係止弾片自体ではない操作頭部によって横揺れを防止する技術は予定していない。

また、本件考案は、操作孔については登録請求の範囲に何ら記載を有しないものの、明細書には「縦割溝8の手許側に形成した操作孔10」と記載され、操作孔が縦割溝に含まれる旨の記載は全く見出し得ない。要するに、上の記載を図面第2図と併せて観察すると、本件考案において、操作孔が縦割溝の手許側で且つこれと連通状に設けられていることが認められるに過ぎず、被告主張の如く解すべき根拠はない。いわんや図示実施例において操作孔は略円形の孔として示され、これが常識的に「縦割溝」であるとみることはできない。そうすると、本件考案にあって、縦割溝と操作孔とは相互に区別された別個の技術的構成とされていると解すべきである。

さらに、上記を裏付ける記載として、明細書には「係止弾片6の操作部6"は筒状体7に穿設した縦割溝8に収納し、この際係止弾片6の手許側に形成した操作頭部9を縦割溝8の手許側に形成した操作孔10に嵌挿状態となし」と説明されている。従って、「収納」に関する構成は、あくまでも操作部と縦割溝についてなされるものであり、操作頭部と操作孔との関係は「収納」とは異なる「嵌挿状態」であると説明されている(尚、図面第2図において操作頭部の外周と操作孔との間には大きな空隙を有する)。

(3)  ロ号物件の「収納」の主張について

洋傘を開傘する場合は操作頭部を強く押入するのが通常であり、ストッパが設けられていない限り係止弾片を最終押入位置まで押入するものである。従って本件考案が安定した押入操作を確保するというのは、押入の全行程にわたって横揺れを防止しているからにほかならず、押入行程の一部分だけ横揺れを防止するものまで技術的範囲に包含するものではない。

また、ロ号物件は、押入行程の一部分において操作部106"の立上り部106'"の前縁を縦割溝108'に「わずかに進入している」ものではあるが、これは係止弾片の横揺れを防止する関係で「係合」しているものではない。ロ号物件にあって押入行程のすべてにおいて係止弾片106の横揺れが小さいのは、前記立上り部106'"の前縁と縦割溝108'に原因しているからではなく、係止弾片106が軸管101の縦溝105に拘束されているからであり、また押入後に操作頭部109の周側部が操作孔110に拘束されて結果的に係止弾片106の横揺れを防止するからである。

5 被告の再反論

1 甲第11号証における軸管強度の実験は、「柄を握った手を決った早さで90度内側へひねり、グッととめる。元へ戻して、またグッととめる。これをぜんぶで150回(75往復)やってみた。回す前に、10ミリの雨に10秒間ぬらしておいた。」という方法でおこなわれているが、このようなふりまわしを150回も続けて行うことは普通の傘の取扱いとしては考えられない。普通は、軸管先端の方が何かにはさまっているのに無理に柄をこじったり、暴風雨の際、突風に対して無理な操作をしたりした場合などに、軸管が縦溝部分で折れ曲ったり折れてしまったりすることがあり、本件明細書において「軸管折損の虞れ」との記載も、そのような折れ曲りの場合を予想したものと解され、前記甲第11号証によって記載されたふりまわしによって折れる場合は予想していない。

2 仮にそうでないとしても、甲第11号証のふりまわしの実験において、B'ジャンプ(本件ABジャンプ)の不合格割合は4割であるのに対し、Aジャンプの方は7割が不合格であり、かかる差のついた理由としてあげられる両者の構造上の相違は、ABジャンプでは、軸管にその縦溝の部分を除いて筒状体がぴったり密着されかこいめぐらされているのに対し、Aジャンプでは、筒状体の内側で軸管に密着している部分がABジャンプのものよりずっと少ないという相違だけである。

そうしてみると、本件考案も、イ号、ロ号物件も、「縦溝を囲繞する位置で軸管に嵌着した筒状体」の構成をそなえることによって、前記ふりまわしに対して軸管を補強する効果を有するということができ、作用効果に差異はない。

第3証拠

1  原告

1 甲第1ないし第11号証。

2  検甲第1号証(被告の実施品)、第2号証(イ号物件のうち軸管、係止弾片、筒状体のみを組付けた半製品で軸管に手で曲げ力を加えた結果縦溝の露出部分で軸管が折れたもの)。

3  乙号各証の成立は認める。

検乙各号証が被告主張の物件であることは認める。

2  被告

1 乙第1ないし第3号証、第4号証の1ないし4、第5、6号証。

2 検乙第1号証(原告物件のうちのイ号物件)、第2号証(同ロ号物件)、第3号証(マルコ産業株式会社製造のAジャンプ洋傘)、第4号証(同Bジャンプ洋傘)、第5号証(イ号物件の筒状体を取りはずしできるように分解した洋傘)、第6号証(被告の実施品)

3  甲第9、10号証の成立は不知。その余の甲号各証の成立は認める。

検甲第1号証が原告主張の物件であることは認める。第2号証がイ号物件のうち軸管と係止弾片と筒状体を組付けた半製品で縦溝露出部分で折曲げられているものであることは認め、その余は争う。

理由

(差止請求権不存在確認請求について)

1  請求原因1(被告が本件実用新案権を有すること)は当事者間に争いがなく、上争いのない本件考案の「実用新案登録請求の範囲」の記載、成立に争いのない甲第1号証(本件考案の実用新案公報、以下「本件公報」という、別添実用新案公報に同じ)によれば、本件考案の構成要件は請求原因2(1)記載のとおり分説するのが相当であり、また、上記甲第1号証によれば、本件考案の作用効果は次のとおりである(本件公報第2欄30ないし第3欄3行目、なおこの点については被告の認めるところである)。

(1)  係止弾片6を装設した縦溝5を軸管1に穿設してあるが、その位置には筒状体7が被嵌されているので縦溝5の形成による軸管折損の虞を完全に解消できる。

(2)  筒状体7を軸管1に固定して用いるものであるから傘骨ろくろ2の位置に対応して適切な個所に固着することが容易となる。

(3)  縦割溝8に係止弾片6を収納し、筒状体7を軸管1に固定するだけですむので、組立ても簡易な作業ですみ

(4)  係止弾片6は縦割溝8より横揺れがないので安定した押入操作を長期にわたり確保することができる。

2  原告がイ号、ロ号物件(ただし、別紙目録(1)、(2)の中で次に認定の説明及び図面については争いがある)を業として製造販売していることは当事者間に争いがない。

別紙目録(1)のイ号物件説明書及びイ号図面中「尚、前記操作口頭部109の両側面は操作孔110の側面と接するように嵌挿されている」との部分及び第2、3図について当事者に争いがあるが、イ号物件であることにつき争いのない検乙第1号証によれば別紙目録(1)記載の説明及び図面のとおり表示するのが相当である。

また、別紙目録(2)のロ号物件説明書中「この部分108'には係止弾片106の操作部106"の立上り部106'"の前縁がわずかに位置し、操作頭部109を完全に挿入した時初めて立上り部106'"の前縁は縦割溝108'より後退する」との説明部分について当事者間に争いがあるがロ号物件であることにつき争いのない検乙第2号証によれば、別紙目録(2)記載の説明とおり表示するのが相当である。

そして、上記事実によれば、イ号物件の構成は請求原因4(1)の記載のとおり分説するのが相当であり、ロ号物件の構成は構成(4)"を次のとおり訂正するほか、イ号物件と同様に分説するのが相当である。

「(4)" 筒状体107に縦割溝108を形成し、縦割溝108はの縦溝105よりも溝幅が大で、閉塞突部120120間に位置する部分の縦割溝108'は縦溝105と略同幅であり、この部分108'には係止弾片106の操作部106'の立上り部106'"の前縁がわずかに位置し、操作頭部109を完全に押入した時初めて立上り部106'"の前縁は縦割溝108'より後退する」

3  そこで、イ号物件について判断する。

1 イ号物件の構成(1)'、(2)'、(5)'、(6)'は本件考案の構成要件(1)(2)(5)(6)をそれぞれ充足することは明らかであり、この点当事者間に争いがない。

2 構成(3)'は、「筒状体107は縦溝105約50ミリメートルのうち約21ミリメートルを囲む位置にある」のに対し、構成要件(3)は、「該縦溝を囲繞する位置で軸管に嵌着した筒状体」を要件としている。

被告は上のように筒状体が縦溝の一部しかおおっていないものも本件考案の構成要件(3)にいう「該縦溝を囲繞する」の要件を充足すると主張し、原告はこれを争うので以下判断する。

前記甲第1号証によれば、本件公報の考案の詳細な説明の項には「本考案は軸管の手許側に固設し係止部の手動操作によって、自動的に開傘するようにした洋傘において、当該係止部の改良に関する。従来この種の係止部は既知のように軸管に穿設した縦溝に押入自在とした係止片を収納し、該係止片の押入操作により軸管に嵌層の傘骨ろくろとの係止を解除するように構成されているため、軸管に縦溝を穿設する加工を施さなければならないだけでなく、この縦溝のところから軸管が折損し易い難点があった。本考案せはこのような欠陥を排除しようとするもので」(第1欄26ないし36行目)及び「本考案は叙上のように係止弾片6を装設した縦溝5を軸管1に穿設してあるが、その位置には筒状体7が被嵌されているので、縦溝5の形成による軸管折損の虞れを完全に解消することができ」(第2欄30ないし34行目)との記載のあることが認められる。

上事実によれば、本件考案は係止部の操作により自動的に開傘する洋傘において従来縦溝のところから軸管が折損し易い欠点があったことに鑑み、その欠点を完全に解消するために係止部を改良したもので、かかる作用効果を奏するためには軸管の縦溝の全長にわりた筒状体を被嵌させることが必須の前提となるものと認められ、従って、構成要件(1)の「囲繞する」とは「縦溝の全長にわたり筒状体により囲繞する」との意味に解すべきである。

そうするとイ号物件は筒状体が縦溝の全長を被嵌していない点で本件考案の必須の構成要件を欠き、その結果、イ号物件のうち軸管と係止弾片と筒状体を組付けた半製品で縦溝露出部分で折り曲げられているものであることに争いのない検甲第2号証(イ号物件の軸管が縦溝露出部分で折れ曲っている)及び成立に争いのない甲第11号証(筒状体が縦溝全長を被嵌していないABジャンプ傘(イ号物件と同じ型式)において150回のふりまわし実験の結果4割が縦溝部分で折れたりしている。なお、洋傘の軸管をふりまわして回転させることは雨水を切る際しばしば行われることであり本件考案の折損の虞れも係る点を含んでいるものと推測される)により明らかなようにイ号物件は本件考案の奏する作用効果(1)を有しない。

従って構成(3)'は構成要件(3)を充足しない。

3 (1) 構成(4)'は縦割108は縦溝105よりも溝幅が大で、閉塞突部120120の間に位置する部分の縦割溝108'は縦溝105と略同幅であるが、この部分108'には係止弾片106の操作部106"の立上り部106'"が位置せず、」なのに対し、本件考案の構成要件(4)は「該係止弾片の操作部は筒状体7に形成した縦割溝に収納」することを要件としている。

(2) 被告は上構成要件の「収納」とは単に「おさめいれる」ことであると主張し、原告は「横揺れしないようにおさめること」であると主張する。

前記甲第1号証によれば、本件公報の考案の詳細な説明の項には「係止弾片6は縦割溝8により横揺れがないので安定した押入操作を長期にわたり確保することができる」(第3欄1ないし3行目)との記載があり、上記作用効果をもたらす構成要件について本件公報の「実用新案登録請求の範囲」中の係止弾片と縦割溝との関係の記載をみてみると「該係止弾片の操作部は筒状体に形成した縦割溝に収納する」(第1欄20、21行目)とあり、他に両者の関係についての記載はみあたらず、本件考案はかかる構成要件を採用することにより横揺れ防止の効果をねらったものと認められる。そうすると「収納」とは横揺れしないようにおさめいれること」と解すべきである。

そして、イ号物件の前記構成からみて、縦割溝108108'が係止弾片106の押入操作にあたり横揺れ防止の効果を持ち得ないことは明らかである。

(3) ところで、被告はイ号物件において操作頭部109と操作孔110との間に横揺れしないようにおさめいれる関係があり、従って構成要件(4)を充足すると主張する。

そして、イ号物件は前記のとおり「操作頭部109の両側面は操作孔110の側面と接するように嵌挿」されている。

しかし、前記甲第1号証によれば、本件公報の考案の詳細な説明の項には「この際係止弾片6の手許側に形成した操作頭部9を縦割溝8の手許側に形成した操作孔10に嵌挿状態となし、同孔10の手許側であてる基端部7'に止ピン11を貫着して筒状体7を軸管1に固定する」(第2欄16ないし20行目)と 記載があり、及びその図面の簡単な説明では「6…係止弾片、6"…操作部、7…筒状体、8…縦割溝、9…操作頭部」(第4欄3、4行目)と指定して、操作頭部と係止弾片、縦割溝と操作孔を区別していることが認められ、また本件公報第2図の操作頭部と操作孔との間にはかなりの間隙がみられるのであって、これらによれば、本件考案は両者の相互間の横揺れ防止を予想していないことが認められ、従って本件公報の作用効果の記載「係止弾片6は縦割溝8により横揺れがないので」の中に係止弾片に操作頭部を、縦割溝に操作孔に含めることは許されない。

従って被告の前記主張は採用できない。

(4) よって構成(4)'は構成要件(4)を充足しない。

4  次にロ号物件について判断する。

1 構成(1)"、(2)"、(5)"、(6)"が構成要件(1)、(2)、(5)、(6)を充足することは明らかでありこの点当事者間に争いがない。

2 構成(3)"は「筒状体107は縦溝105約50ミリメートルのうち約21ミリメートルを囲む位置にあり」であり、かかる構成が本件考案の構成要件(3)を充足しないことはイ号物件における判断と同一である。

3(1) 構成(4)"は「筒状体107に縦割溝108を形成してはいるが、前記縦割溝108は縦溝105よりも溝幅が大であり、閉塞突部120120間に位置する部分の縦割溝108'は縦溝105と略同幅であり、この部分108'には係止弾片106の操作部106'の立上り部106'"の前縁がわずかに位置し、操作頭部109を完全に押入したとき初めて立上り部106'"の前縁は縦割溝108'より後退する」のに対し、構成要件(4)は「該係止弾片の操作部は筒状体に形成した縦割溝に収納する」ことを要件としている。

(2) 原告は上「収納」は操作頭部を押入しない場合と押入した場合とのいずれにあっても操作部が縦割溝に常に「横揺れを防止できるように収納」されていることを意味すると主張する。

なるほど前記甲第1号証により認められる本件公報第2図によれは別紙図面(1)のとおり押入しない場合はもちろん完全に押入した場合にも係止弾片の操作部は縦割溝に収納されているものと認められる。ぎず、押入操作は開傘操作をその目的とするものであるから押入操作の際、傘が開いた後完全に押入するまで、係止弾片の操作部を収納する必要性はなく、本件考案がかかる効果まで予定したものと認め難く、本件公報中他に原告の主張を裏付けるに足りる記載はみあたらない。従って原告の上記主張は採用できない。

(3) そこで、構成(4)"の作用効果をみると、前記検乙第2号証によれば、ロ号物件の係止弾片106の操作部106'筒状体107の縦割溝108'に位置しているもののその部分はわずかであり、ロ号物件のかかる構成によって横揺れ防止作用をほとんど営まず、むしろ、ロ号物件においては係止弾片106を軸管101の縦溝105が拘束することによって横揺れを防止しているものと認められる。そしてこのことはイ号物件の筒状体を取りはずしてできるように分解した洋傘であることに争いのない検乙第5号証(軸管101と係止弾片106の関係がロ号物件と同じであるイ号物件において、軸管101の縦溝105による係止弾片106の拘束のみで係止弾片106の操作に殆ど横揺れがない)によって裏付けられる。そうすると、係止弾片106を縦溝105で拘束することにより横揺れを防止しているロ号物件と係止弾片の操作部を縦割溝に収納することにより横揺れを防止している本件考案とは技術思想を異にするものと言わざるをえない。

その他の被告の主張が採用できないことはイ号物件についての判断と同一である。

よって、構成(4)"は構成要件(4)を充足しない。

5  以上のとおりとすれば、原告が業としてイ号、ロ号物件を製造販売することは、被告の本件実用新案権を侵害するものではない。しかし、被告はこれが侵害にあたると主張して争っており(このことは弁論の全趣旨により明らかである)、原告には確認の利益がある。

よって原告の差止請求権不存在確認請求は理由がある。

(不正競争防止法に基づく請求)

6 被告が各種洋傘の輸入販売を行っている有限会社丸定商事の代表取締役であることは被告の自覚するところであるが、上のことから直ちに被告が個人営業として各種洋傘の製造販売を営んでいることを認めることはむつかしく、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。また、成立に争いのない甲第7号証によれば、大黒洋傘株式会社に対する警告書は被告個人の名で出されているところ、本件全証拠によっても被告がかかる行為を前記会社の代表者の立場として或いは同会社のためになしたものと認めるに足りない。

そうすると、原被告間に競争関係の認められない本件においては、その余につき判断するまでもなく不正競争防止法に基づく請求は理由がない。

7 よって、原告の請求は、原告がイ号、ロ号物件を製造販売することにつき被告が本件実用新案権に基づく差止を求める権利を有しないことの確認を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条、92条を適用し、仮執行宣言の申立については相当でないからこれを却下し、主文のとおり判決する。

(潮久郎 鎌田義勝 徳永幸蔵)

〈以下省略〉

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